男の子の低身長治療|プリモボラン・アナストロゾールの効果を医師が解説

この記事で分かること
男の子の低身長治療では、成長ホルモン治療だけでなく、「プリモボラン」や「アナストロゾール」という薬について相談を受けることがあります。
この記事では、男児の低身長に対して、プリモボランやアナストロゾールがどのように働くのか、実際に身長を伸ばす効果があるのか、副作用や注意点は何かを、できるだけ分かりやすく解説します。
どんな人向けの記事か
この記事は、次のようなお子さん・ご家族に向けた内容です。
- 男の子で身長が低く、今後どのくらい伸びるか心配
- 骨年齢が進んでいる、または思春期が早めと言われた
- 成長ホルモン治療だけで十分か迷っている
- プリモボラン、アナストロゾール、リュープリンなどの治療を提案された
- 自由診療の低身長治療について、効果とリスクを知りたい
結論の要点
まず大切な結論からお伝えします。
プリモボランやアナストロゾールは、男の子の低身長治療で使われることがありますが、誰にでも有効な薬ではありません。効果が期待できる可能性があるのは、「まだ骨端線が残っている」「骨年齢・思春期の進み方を正確に評価できている」「成長予測に医学的な余地がある」場合です。
プリモボランは、成長速度を一時的に上げる可能性がある一方で、骨年齢を進める可能性もあり、「最終身長を確実に伸ばす薬」とは言い切れません。
アナストロゾールは、男性ホルモンが女性ホルモンに変わるのを抑えることで、骨の成熟をゆるやかにし、成長できる期間を延ばすことを狙う薬です。ただし、単独使用での効果は近年の臨床試験では限定的とされており、安全性の確認も重要です。
いずれの治療も、「身長を伸ばす魔法の薬」ではなく、骨年齢、思春期の進行、成長曲線、ホルモン値、予測成人身長を総合的に見て、慎重に判断する治療です。
男の子の身長はなぜ止まるのか
身長が伸びる場所は、骨の端にある「骨端線」と呼ばれる成長板です。成長期の間は、この骨端線で軟骨が増え、それが骨に置き換わることで身長が伸びていきます。
男の子では思春期に入ると、テストステロンという男性ホルモンが増えます。テストステロンは筋肉や骨の成長を促し、思春期の身長の伸び、いわゆる成長スパートを起こします。
一方で、テストステロンの一部は体内でエストロゲンという女性ホルモンに変換されます。実は、男の子でも骨端線を閉じる主な役割を持つのはエストロゲンです。つまり、思春期のホルモンは「身長を伸ばすアクセル」であると同時に、「成長を終わらせるスイッチ」でもあります。
このバランスをどう考えるかが、男児の低身長治療では非常に重要です。
プリモボランとは?
プリモボランは、一般名をメテノロン酢酸エステルといいます。分類としては蛋白同化ステロイド、いわゆるアナボリックステロイドの一種です。
蛋白同化ステロイドと聞くと、スポーツのドーピングを思い浮かべる方もいるかもしれません。ただし、医療用の薬としては、以前から体重減少や骨粗しょう症などに対して使用されてきた歴史があります。
男児の低身長治療においては、成長速度を高める目的で使われることがあります。海外の論文では、同じ蛋白同化ステロイドであるオキサンドロロンのデータが多く、体質性思春期遅発症、つまり「思春期が遅めで身長の伸びも遅い男の子」に対して、短期間の成長速度を上げる効果が報告されています。
プリモボランの作用を分かりやすく言うと
プリモボランのイメージは、「成長スピードを少し押し上げる薬」です。
筋肉や骨への蛋白同化作用により、体の成長を後押しする可能性があります。特に、骨年齢が遅れていて、思春期の立ち上がりが弱いお子さんでは、身長の伸びが一時的に良くなることがあります。
ただし、ここで注意が必要です。
成長速度が上がることと、最終身長が高くなることは同じではありません。たとえば、1年間でよく伸びても、その分だけ骨年齢が早く進んでしまえば、最終的な身長の伸びはあまり増えない可能性があります。
つまり、プリモボランは今の伸びを良くする可能性はありますが、成人身長を確実に高くする薬とは言い切れません。
プリモボランの臨床論文データ
男児の体質性思春期遅発症に対するアンドロゲン療法については、2026年にメタ解析が報告されています。この解析では、テストステロンやオキサンドロロンなどの短期アンドロゲン療法を受けた男児で、最終成人身長が未治療群より平均約1.78cm高かったとされています。
ただし、効果は大きなものではなく、低用量・短期間の治療で比較的良い結果が示された一方、中等量や高用量、長期治療では明確な有益性が示されにくい結果でした。
また、過去のオキサンドロロンのランダム化比較試験では、低用量の治療により身長の伸びる速度や体重増加は改善しましたが、心理面の改善は明らかではありませんでした。別の長期観察研究では、成長速度は上がっても最終身長への効果は限定的とされています。
このため、プリモボラン系の治療は「短期的に伸びを改善する可能性がある補助療法」と考えるのが現実的です。
アナストロゾールとは?
アナストロゾールは、アロマターゼ阻害薬という種類の薬です。
アロマターゼとは、男性ホルモンを女性ホルモンに変える酵素です。アナストロゾールはこの酵素の働きを抑えることで、エストロゲンを下げます。
男の子の骨端線を閉じる主役はエストロゲンです。そのため、エストロゲンを下げれば、骨年齢の進行をゆるやかにし、身長が伸びる期間を少し延ばせるのではないか、という考え方で使用されます。
分かりやすく言うと、アナストロゾールは「骨の成熟スピードを抑えて、成長できる時間を稼ぐ薬」です。
アナストロゾールの臨床論文データ
アナストロゾールの研究で有名なのは、成長ホルモン治療中の男児に併用した試験です。この研究では、成長ホルモンにアナストロゾールを追加した群で、骨年齢の進行が抑えられ、予測成人身長が2年で約4.5cm、3年で約6.7cm改善したと報告されています。
ただし、これは「予測成人身長」の改善であり、全員が実際の成人身長でその分だけ伸びたと確認されたわけではありません。予測成人身長は骨年齢をもとに計算するため、治療効果を評価するうえで参考になりますが、最終結果そのものではありません。
一方、2024年には、思春期の男児にアナストロゾールまたはレトロゾールを使用した3年間のランダム化試験が報告されました。この研究では、治療1年目には予測成人身長の改善が見られましたが、2〜3年後にはその効果は持続せず、全体としての予測成人身長の増加は約1.3cmにとどまりました。
つまり、アナストロゾール単独で大きく身長を伸ばす効果は、現時点では限定的と考えられます。成長ホルモンとの併用、骨年齢、思春期段階、治療開始のタイミングによって結果が大きく変わる可能性があります。
プリモボランとアナストロゾールの違い
プリモボランは、成長速度を押し上げる方向に働く薬です。イメージとしては「アクセル」です。
一方、アナストロゾールは、骨年齢の進行を抑える方向に働く薬です。イメージとしては「骨端線が閉じるスピードをゆるめるブレーキ」です。
ただし、どちらも使い方を誤ると逆効果になる可能性があります。
プリモボランは、成長速度を上げても骨年齢が進みすぎれば最終身長に結びつきません。アナストロゾールは、エストロゲンを下げすぎることで骨密度や脂質代謝、ホルモンバランスに影響が出る可能性があります。
大切なのは、「どちらの薬が強いか」ではなく、「その子の成長段階に合っているか」です。
実際の治療では何を見て判断するか
当院で男児の低身長を評価する場合、まず成長曲線を確認します。現在の身長だけでなく、これまでの伸び方、1年間の成長速度、思春期の進み方を見ます。
次に、手や膝のレントゲンで骨年齢を評価します。暦の年齢が12歳でも、骨年齢が10歳なのか、13歳なのかで、残された伸びしろは大きく変わります。
さらに、必要に応じて血液検査を行い、IGF-1、甲状腺機能、LH、FSH、テストステロン、エストラジオールなどを確認します。成長ホルモン分泌不全が疑われる場合は、成長ホルモン分泌刺激試験を検討します。
そのうえで、予測成人身長、両親の身長から見た目標身長、本人の思春期段階を総合的に判断します。
治療の候補になるのは、骨端線がまだ残っており、医学的に成長の余地がある場合です。すでに骨年齢がかなり進み、骨端線が閉じかけている場合には、薬を使っても効果は限定的です。
副作用と注意点
プリモボランでは、にきび、皮脂の増加、体毛の増加、声変わりの進行、陰茎肥大、持続性勃起、肝機能障害、脂質異常などに注意します。蛋白同化ステロイドであるため、用量や期間を誤ると骨年齢の進行、ホルモンバランスの乱れ、将来的な性腺機能への影響が問題になる可能性があります。
アナストロゾールでは、エストロゲン低下による骨密度への影響、腰椎の形態変化、関節痛、脂質異常、肝機能異常、気分変化などに注意します。特に成長期の男児では、骨を強くするうえでもエストロゲンは一定の役割を持っています。そのため、単にエストロゲンを下げればよいというものではありません。
治療中は、身長・体重・成長速度・骨年齢・血液検査を定期的に確認し、効果が乏しい場合や副作用が疑われる場合は中止を含めて再検討します。
自由診療で治療を受ける前に知っておきたいこと
低身長治療では、「あと何cm伸びますか」「この薬を飲めば170cmになりますか」といった相談をよく受けます。
しかし、医学的に正確に言えるのは、「現在の骨年齢や成長曲線から考えて、どの程度の可能性があるか」という予測です。薬を使ったからといって、希望する身長に必ず届くわけではありません。
特にプリモボランやアナストロゾールは、低身長に対して標準治療として広く確立された薬というより、限られた条件で慎重に検討される補助的治療です。治療を受ける場合は、期待できる効果だけでなく、効果が出ない可能性、副作用、通院や検査の負担、費用についても理解しておくことが大切です。
まとめ

男の子の低身長治療では、思春期のタイミングと骨年齢の評価が非常に重要です。
プリモボランは、成長速度を一時的に上げる可能性がありますが、最終身長を大きく改善する効果は限定的です。アナストロゾールは、骨年齢の進行を抑えることで成長期間を延ばすことを狙う薬ですが、単独使用での効果は近年の研究では大きくないとされています。
一方で、成長ホルモン治療との併用や、骨年齢・思春期段階を慎重に見極めた場合には、一定の可能性がある治療とも考えられます。
大切なのは、「薬を使うかどうか」だけで判断するのではなく、成長曲線、骨年齢、ホルモン検査、予測成人身長をもとに、その子にとって本当に治療のメリットがあるかを見極めることです。
にしな内科では、糖尿病・内分泌診療の視点から、低身長や思春期の進行、骨年齢評価についても丁寧に確認し、ご本人とご家族に分かりやすく説明することを心がけています。身長のことで気になることがあれば、成長曲線や過去の身長記録を持参のうえご相談ください。
執筆・監修
にしな内科
院長 仁科 周平
糖尿病・内分泌内科/一般内科
※本記事は一般的な医学情報をまとめたものです。実際の治療方針は、年齢、骨年齢、思春期段階、検査結果、既往歴によって異なります。自己判断での内服や個人輸入薬の使用は避け、必ず医師にご相談ください。
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参考文献
- Zegarra W, Buyukinan M, Gourgari E, et al. Anastrozole vs Letrozole to Augment Height in Pubertal Males With Idiopathic Short Stature: A 3-Year Randomized Trial. Journal of the Endocrine Society. 2024;8(10):bvae141.
※アナストロゾール・レトロゾール単独療法の効果と安全性を比較した比較的新しい臨床試験。 - Mauras N, Gonzalez de Pijem L, Hsiang HY, et al. Anastrozole Increases Predicted Adult Height of Short Adolescent Males Treated With Growth Hormone: A Randomized, Placebo-Controlled, Multicenter Trial for One to Three Years. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2008;93(3):823-831.
※成長ホルモン治療中の思春期男児にアナストロゾールを併用した研究。 - Mauras N, Ross JL, Gagliardi P, et al. Randomized Trial of Aromatase Inhibitors, Growth Hormone, or Combination in Pubertal Boys With Idiopathic Short Stature. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2016;101(12):4984-4993.
※特発性低身長の思春期男児に対して、アロマターゼ阻害薬、成長ホルモン、併用療法を比較した研究。 - Wang K, Zhang W, Zhao X, et al. Aromatase Inhibitors for Short Stature in Male Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-Analysis. BMC Pediatrics. 2024;24:790.
※男児低身長に対するアロマターゼ阻害薬の効果と安全性をまとめたメタ解析。 - Wilson DM, McCauley E, Brown DR, Dudley R. Oxandrolone Therapy in Constitutionally Delayed Growth and Puberty. Bio-Technology & Therapeutics. 1995;5(3-4):249-258.
※体質性思春期遅発症の男児に対するオキサンドロロン治療のランダム化比較試験。 - Joss EE, Zuppinger KA, Schwarz HP, Roten H. Oxandrolone in Constitutionally Delayed Growth, a Longitudinal Study up to Final Height. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 1989;69(6):1109-1115.
※オキサンドロロン治療後、最終身長まで追跡した古典的研究。 - Bassi F, Neri AS, Gheri RG, et al. Oxandrolone in Constitutional Delay of Growth: Analysis of the Growth Patterns up to Final Stature. Journal of Endocrinological Investigation. 1993;16(2):133-137.
※体質性成長遅延に対する低用量オキサンドロロンの最終身長への影響を検討した研究。 - Liu X, et al. Effects of Androgen Therapy on Final Adult Height in Boys With Constitutional Delay of Growth and Puberty: A Meta-Analysis of Retrospective Cohort Studies. BMC Endocrine Disorders. 2026;26:121.
※テストステロンやオキサンドロロンなど、男児CDGPに対するアンドロゲン療法の最終成人身長への影響をまとめたメタ解析
