当院の糖尿病治療の特色
糖尿病治療は登山
「生活習慣病」として代表格がこの糖尿病でしょう。
ですが、私はこの生活習慣病という言葉があまり好きではありません。
なぜならこの言葉からは「生活習慣が悪かった」からなってしまった病気というイメージをどうしても持ってしまうからです。もしこの言葉を用いるならば「生活習慣が悪い」からなるのではなく、「生活習慣に工夫がいる」病気だと捉えるべきだと考えます。特に日本を含む東アジア人で糖尿病と診断される多くの方は何らかの遺伝的な要因(両親・兄弟が糖尿病)をもち、糖尿病になった原因は決して生活習慣だけではありません。
私は糖尿病の治療に対して登山のようなイメージを持っています。当院スタッフ一同はあくまでもガイド・ナビゲーターであり、実際に山を登りゴールを目指すのは患者様自身です。うまく登るためにはいろいろな装備(薬)を持ち、そして正しいルート(食事の摂り方や運動のやり方)を知らねばなりません。その手助けや提案をするのが我々ガイドの役割であり、それぞれのレベルに合わせた山頂(治療の目標)に向けて、それぞれの個別の装備・ルート(生活スタイルや嗜好に合わせたオーダーメイド治療)が必要であると考えています。そのためには、私医師一人では決して治療は完結せず、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士といった各方面のプロフェッショナルからアプローチを行うチーム医療が欠かせません。
当院では糖尿病療養指導士の資格を有するスタッフを配置し、チームで一人の患者様の治療を行います。病気と向き合い、きちんと治療をすれば糖尿病ではない方と同じように健康寿命を全うして頂けるものと信じています。将来糖尿病にならないか心配な方、糖尿病の治療がなかなかうまくいかない方、1型糖尿病でより専門的な治療を要する方、手術に向けて治療強化が必要な方、などなど幅広く対応致します。どうぞお気軽にお尋ねください。
当院における糖尿病治療の強み
通院負担(費用・時間)に極力配慮いたします
糖尿病を始めとする慢性疾患には定期受診が欠かせません。そこで、当院で特に大切にしていることは患者様の通院負担を軽くする努力を惜しまないことです。
院内検査が充実しております
HbA1c、血糖値はもちろん、肝臓や腎臓、脂質などの生化学検査も当日約15分で結果を確認し、当日の治療薬の見直し、副作用チェックが可能です。また、腕に貼るだけで24時間血糖値をモニターできるリブレproセンサー(2週間記録装置)、リブレセンサー(血を出さず機械本体やスマホをかざし、リアルタイムの血糖値チェック)が使用可能です。またこれらの情報を自己血糖測定器と併せてクラウド管理を行うことで、リアルタイムに得られる血糖値の情報から不意の高血糖、低血糖などに的確なアドバイス致します。
糖尿病だけではなく、糖尿病の周辺に起こる疾病も併せて治療を行います
HbA1cの数値だけを追いかけるのではなく、トータルでの健康を第一に考えています。例えば膵臓のチェックを行うため、精度の高いエコー機器とエコー専属技師の配置しております。
それ以外にも高血圧、脂質異常症、骨粗しょう症、感染症、認知症、膵疾患などといった糖尿病の周辺に起こる疾病の治療も行います
専属の管理栄養士による個別指導が可能です
「血糖値の管理に関して、自分ひとりでは続けられる自信がない」「何をどれだけ食べたらいいのか分からない」などのお悩みに対して、当院では専属の管理栄養士が一人ひとりに合わせた食事計画を提案します。食生活の見直しはもちろん、調理法や食べ方のアドバイスを通じて、患者様の健康維持と疾患管理のサポートを行います。
患者様ごとの性格や個性、人生観へ配慮したテーラーメイド治療を行います
当院では「食事療法」と「運動療法」の両輪で、患者様の生活習慣全般の改善をサポートし、血糖値の適正管理を目指します。そのためにも、画一的な治療計画をご提案するのではなく、HbA1c測定器を導入して、適宜治療法の見直しを行います。
採血後約5〜10分で継続的な治療の効果を把握できるので、「今の治療や生活習慣で大丈夫なのか」といった患者様のお悩みを、即座に解決できるのが強みです。そのうえで医師、看護師、管理栄養士からなる専門チームが一丸となって、糖尿病患者様一人ひとりの状況に合わせた、オーダーメイドの治療計画をご提案します。
当院への受診を薦められる方
- 健康診断で血糖値、HbA1cの項目で引っかかっている。
- 過去に糖尿病で通院していたが今はどこにも通院していない。
- 血縁者に糖尿病の人がいて将来糖尿病になるのが心配だ。
- 現在、糖尿病で通院しているが治療がうまくいかない。
- 糖尿病を疑う症状がある。(のどが渇く、頻回にトイレにいく、急に痩せたなど)
糖尿病と診断された方へ
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糖尿病に関する基礎知識
糖尿病とは、糖尿病の診断基準
糖尿病は血糖値が高い状態が長く続くことで起こる合併症により、健康寿命が短くなることやQOLが低下してしまう怖い病気です。
近年、世界中で糖尿病を患う方は増加傾向であり、日本国内では5〜10人に1人程度とまで推察されています。血糖値が高くなる背景には、遺伝や1型糖尿病のような自己免疫により膵臓からインスリン分泌が出なくなること、肥満や肝障害などによりインスリンの効きが悪くなることがあります。診断は、空腹時血糖値126mg/dl または随時(食後)血糖値200mg/dlと血糖値が高いことに加えて、HbA1c 6.5%以上という基準を満たせば診断されます。HbA1cが6.5未満でもワンポイントの血糖値が高い場合は境界型糖尿病(いわゆる糖尿病予備軍)として糖尿病へ進まないように、食事療法や運動療法とともに一部の内服薬を開始することができます。
糖尿病の診断
糖尿病型の血糖値+HbA1c 6.5%以上を満たす場合、糖尿病の診断となります。
2型糖尿病について
1型糖尿病や特定遺伝子の異常、妊娠糖尿病などを除くほとんどの糖尿病患者が2型糖尿病として分類され、国内の糖尿病患者の10人に9人以上はこの病名となります。
2型糖尿病の病態
インスリン分泌の低下とインスリン効果の減弱、この両者が原因となります。2型糖尿病では特に病状が幅広く、より個別化された治療戦略が重要です。「同じような年代の友達が糖尿病で治療しているのに、私と薬の種類も数も違う」なんてことはありませんか?これは糖尿病の原因も、重症度も、治療の目標も異なるからです。
1型糖尿病について
膵臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が急激に破壊され、からだの中のインスリンの量が足りなくなって起こる急性発症の糖尿病(急性1型糖尿病)です。他にも比較的ゆっくりとインスリンが出なくなる緩徐進行1型糖尿病と呼ばれる病型もあります。子供のうちに始まることが多く、以前は小児糖尿病、インスリン依存型糖尿(IDDM)と呼ばれていました。しかし最近では成人時に発症するケースも頻繁に認められます。1型糖尿病の原因については、まだはっきりと分かっていません。
主なインスリン治療
基礎カーボカウント:食事で摂取する糖質をバランス良く分配することです。
応用カーボカウント:摂取する糖質(≒炭水化物)を計算し、それに応じたインスリンを打つ方法です。
多くの1型糖尿病では2型糖尿病と違い発症時よりインスリン治療が永続的に必要になります。可能ならばカーボカウントという方法を用いたインスリン注射を行います。最初は難しく感じると思いますが、私だけではなく当院スタッフ全員で習得までバックアップしていきます。また最近では、IT技術の進歩によりインスリン治療の負担も大きく軽減されつつあります。当院ではリブレセンサー等の持続血糖測定器はもちろんのこと、チューブレスのインスリンポンプ(あらかじめプログラミングされたインスリン量が自動注入されるもの)まで全て外来にて導入可能です。病状によって病院での入院治療を推奨することもあります。
1型糖尿病患者会
国内の1型糖尿病患者は欧米に比べて少なく、国内の糖尿病の方の中でもかなり少数派です。そのため社会の中で病気の理解はまだまだ不足しており、学校生活や就職、結婚など多くの場面で様々な知識やサポート体制が必要です。患者、そして患者家族が苦労を共有し、励まし合い、情報交換をすることで多くの問題を解決できます。日本糖尿病協会が中心となり各地域で1型糖尿病の患者・家族会が盛んに開かれており、カウンセリング、サマーキャンプ、新薬等の情報提供、政策提言などを行っています。患者会には我々医療者も参加することで多くのことを学ばせていただきます。ご興味がある方は是非一度ご相談ください。
妊娠糖尿病、糖尿病合併妊娠
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発症した糖尿病にいたっていない血糖値の異常を指します。妊娠前から存在するだろう明らかな糖尿病、もともとの糖尿病患者が妊娠することを「糖尿病合併妊娠」といい、これらは妊娠糖尿病には含まれません。いずれも妊娠中に血糖値が高い場合、母体・胎児にさまざまな影響が出てきますので対策が必要です。
母体リスク:早産、妊娠高血圧症候群、羊水過多症、尿路感染症など
胎児リスク:先天奇形、巨大児、新生児の低血糖など
検査について
初期スクリーニング
随時血糖値≧100㎎/dl
(≧95を推奨する場合もあります)
中期スクリーニング
随時血糖値≧100㎎/dl
または
50gブドウ糖チャレンジテスト
1時間値≧140mg/dl
75gブドウ糖負荷試験(OGTT)
- ◎診断基準
- 75gOGTTで、以下の1項目以上があてはまる場合を妊娠糖尿病と診断します。
75gOGTTの3点中2点の基準を満たす方、もしくは1点の基準を満たしBMI 25を超える方では保険治療で血糖測定が実施可能です。
妊娠中にきちんとした食事や運動により血糖値を管理すればこれらのリスクを可能な限り小さくできます。安全な出産のため、早めの対策が必要です。
またすでに糖尿病治療中の方が妊娠(糖尿病合併妊娠)した際には、経口治療薬はすべて中止しインスリン治療に切り替えての出産準備が必要です。安全な出産には妊娠前からの血糖値の管理が重要ですので、ぜひ主治医の先生と適切な準備のもと計画的な妊娠を進めましょう。
糖尿病患者の死因
最後にあえてこの点について、言及したいと思います。私が糖尿病診療を行う上で、常に意識していることは「木を見て森を見ずになってはいけない」ということです。国内の糖尿病患者の死亡原因について調査した結果では第一位はダントツで悪性腫瘍(ガン)でした。
特に肺ガンがワースト1位です。これは当然ながら、糖尿病患者だけでなく全人類でガンが死に直結する病気だからです。「HbA1cばかりをみて、ガン検診が全然できていない」なんてことのないように、定期的なガン検診(特に無症状のまま進行する悪性度の高いガン:肺ガン、膵臓ガンなど)を積極的にお奨めします。定期的な健康診断のほかに、院内検査にてX線による肺ガン健診、腹部エコー検査によるガン検査が可能です。CT検査、内視鏡検査については他施設に依頼し実施致します。
糖尿病の治療について
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法(生活習慣の工夫)で効果不十分なとき、投与のメリットとデメリットを考えて薬物療法を
食事療法の基本について
- カロリー計算 理想体重(BMI 22)×25〜30kcal/日(但し高齢者でサルコペニアが懸念されるような場合には、BMI 23〜25で計算することも考慮)
- 糖質(50〜60%)・タンパク質・脂質割合の決定
- 塩分量(DM食は6g/日)
→あくまでも「基本」です。ライフスタイル、併存疾患(糖尿病以外の持病)により大きく異なります。
運動療法の基本について
- 有酸素運動(ウォーキングなど)+レジスタンス運動(筋トレ)を組み合わせる
- 肥満(内臓脂肪が多い)→ 有酸素運動を重点的に
- サルコペニア(筋力低下、やせ)→ レジスタンス運動
- 無酸素運動は基本的に望ましい人はいない。(糖尿病網膜症には禁止)
→あくまでも「基本」です。運動を実施する効果的なタイミングや具体的なメニューはライフスタイル、運動能力、併存疾患(糖尿病以外の持病)により大きく異なります。
薬物治療について
2021年10月現在、保険適応のある糖尿病内服薬8種類と多岐にわたります。また糖尿病の注射薬として、従来から用いられてきたインスリン製剤はより安全で有効性の高いものへと進化しましたし、GLP-1受容体アナログ製剤という減量効果の高い薬剤がここ数年で非常に頻用されるようになりました。これらはそれぞれ違ったアプローチで血糖値を下げますので、1種類の薬剤で効果が不十分な方は数種類を組み合わせて治療を行う必要があります。いずれにせよ、闇雲に薬剤を用いるのはなく個々の病状や治療目標に合わせて最小限の薬剤を選択することが重要だと考えます。個人的な見解にはなりますが、薬剤選択を行う上で重要な項目に関してそれぞれの薬剤を評価いたしましたのでご参考下さい。
薬剤名 | 血糖値 低下作用 |
低血糖頻度 | 体重へ の影響 |
費用 | 歴史 | 寿命の延長 科学的根拠 |
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ビグアナイド薬 | 強 | 低 | 減~無 | 安 | 長 | 有 |
DPP4阻害薬 | 中 | 低 | 無 | 中 | 短 | 無 |
SGLT2阻害薬 | 強 | 低〜中 | 減 | 中 | 短 | 有 |
イメグリミン | 強 | 低 | 無 | 中 | 短 | 無 |
スルホニル尿素薬 | 強 | 高 | 増 | 安 | 長 | ▲ |
グリニド | 中 | 中 | 無~増 | 中 | 中 | 無 |
αグルコシダーゼ阻害薬 | 弱 | 低 | 無 | 安 | 中 | 無 |
チアゾリンジン誘導体 | 中 | 低 | 増 | 安 | 中 | ▲ |
GLP-1受容体アナログ | 強 | 低 | 減 | 高 | 短 | 有 |
インスリン | 強 | 高 | 増 | 高 | 長 | 有 |
それぞれの薬のメリット、デメリットを理解し、ここの患者様のライフスタイルや考え方を尊重しながら必要最小限に留めることが重要です。
それぞれの目標HbA1c
適切なHbA1cの目標値は個々の患者様で異なります。国内の指標、世界基準などを提示します。
目標HbA1c(日本糖尿病学会)
最適なHbA1c目標設定(アメリカ糖尿病協会)
HbA1cの目標値は、より詳細な個別の患者背景と主治医の経験に基づいて設定することが望ましいと考えられます。また最近では、HbA1cの数値だけではなく「より質の高いHbA1c」を目指すことも重要視されています。ただ下げるだけではなく、「何で下げるか」「どうすれば安全に、良好なHbA1cを長期間キープできるのか」が大切な考えとなってきます。専門医としての知見をもとに治療を組み立てられればと思います。