RESPIRATORY DISEASE呼吸器疾患

気管支喘息

喫煙やアレルギーといった原因により気管支に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道が細くなり、息が詰まるような息苦しさや発作的な咳、呼吸の際にヒューヒュー、ゼーゼーと鳴る喘鳴(ぜんめい)という症状が現れる呼吸器の病気です。体を横にすると横隔膜が上がり、胸の中の圧が上がることで気管支が狭くなりやすいため「就寝中に咳が悪化する」ことが診断の手がかりにもなります。かなり悪化した喘息発作では、座らなければ呼吸が出来なくなるほどの状態になり、非常につらい症状です。タバコの煙や車の排気ガスの吸入でも悪化します。

気管支喘息の病態図

気管支喘息の治療

気管支に起こった炎症を抑える(抗炎症作用)+狭くなった気管支を広げる(気管支拡張作用)が治療の主体となります。

  • 抗炎症作用:ステロイド、抗アレルギー薬
  • 気管支拡張作用:β2刺激薬、テオフィリン製剤、抗コリン薬

治療薬は主にこれらの作用を持つ吸入薬や内服薬で治療を行います。さらに喘息の治療では、発作を出なくする治療(Controller/ 長期管理薬)と発作を抑える治療(Reliever/ 発作治療薬)に分けられ、発作中と発作予防で治療薬を使い分けるのが一般的です。

生活中の注意点

  1. ほこり、ダニ、カビなどアレルギーの原因(アレルゲン)を可能な限り排除してください。埃がたまりやすい布団や絨毯、日当たりの悪い湿気の多い場所などはマスクをつけてこまめに掃除し、部屋を換気しましょう。またペット(犬、猫)も場合によっては動物の毛がアレルゲンとなるので一度検査にて調べておく必要があります。
  2. 運動後に誘発されやすい喘息発作があります。運動時に悪化するような周期性がある場合には注意が必要です。
  3. 花粉症、風邪をきっかけに発作が悪化しやすい傾向があります。感染症の流行期や人ごみに行く際にはマスク、手洗いなどの標準的な感染予防に努めましょう。

喘息の治療の目標は、「発作を抑えること」ではなく「発作を出なくすること」です。発作を頻回に起こしているような状態では、気管支が慢性的な炎症により硬く変化してしまいどんどん治療に反応しなくなる重症喘息へと進んでしまいます。ぜひ上記のような生活での注意点、吸入薬による発作ゼロを目指しましょう。

COPD

階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じたり、風邪でもないのにせきやたんが続いたりすることがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の主な症状です。ありふれた症状であるため、医師も見過ごしてしまいがちで、病気の発見の遅れにつながります。 COPDが進行すると少し動いただけでも息切れし、日常生活もままならなくなります。さらに進行すると呼吸不全や心不全を起こす命に関わる病気ですので早期発見、早期治療が重要です。また、肺だけでなく全身に影響をもたらして、全身性炎症、心・血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病などを併発しやすいことが知られています。また肺機能の低下から、これまで出来ていたことが出来なくなる虚無感からうつ状態に至ることも問題です。特に40歳以上の方で、喫煙歴のある方は要注意です。以下のような症状のある方は一度ご相談ください

  • 40歳以上で、喫煙歴がある
  • 階段の上り下りで息切れがする。
  • せきやたんがいつも多い。
  • 風邪が治りにくく、長引く。
  • 呼吸のたびに、笑い声でもヒューヒュー、ゼーゼー(喘鳴症状)がある。

COPDの原因

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は別名たばこ病と言われ、原因の90%以上は喫煙です。たばこの刺激は気管支に炎症を起こし、ついには肺を破壊します。喫煙開始の年齢が若いほど、また1日の喫煙本数が多いほどCOPDになりやすく、進行しやすいと言われています。日本では1930年代から1970年代までたばこ消費量の増加が続きましたが、それから約30年遅れてCOPD死亡者数の増加がみられます。下記のグラフには1936年を1とした成人1人あたりのたばこ消費量の推移と、1970年を1としたCOPD死亡者数の推移を示しています。その他、受動喫煙や大気汚染、職業的な塵埃、化学物質も原因と考えられています。

タバコの消費量とCOPDの死亡者数

COPDの診断

スパイロメーター(呼吸機能検査)という診断機器を用いて肺活量や息を吐くときの空気の通りやすさを調べます。COPD患者では、気管支喘息と同様に息が吐き出しにくくなっているため、1秒量(FEV1)を努力肺活量(FVC)で割った1秒率(FEV1%)の値が70%未満のときCOPDと診断されます。COPDの重症度は予測1秒量に対する比率(対標準1秒量:%FEV1)に基づいて判定されます。これらの検査結果に加えて、喫煙歴、労作時の呼吸困難、慢性的なせきやたんなどの症状から総合的に診断します。

  • スパイロ

    気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断に用います。

COPDの治療

残念ながらCOPDを根本的に治し、もとの健康的な肺に戻す治療法は今のところありません。しかし少しでも早い段階で病気に気付き適切な治療を開始することで、症状の改善と将来的なリスクを下げることができます。具体的な治療は、禁煙、薬物療法、ワクチン接種、呼吸リハビリテーションなどがあります。さらに重症化した場合には、在宅酸素療法が行われることもあります。また喘息を合併している場合や、骨粗鬆症、心・血管疾患、消化器疾患、うつを併存する場合、肺合併症がある場合にはそれらの疾患も治療が必要になります。

薬物治療

  • 気管支拡張作用:吸入抗コリン薬、吸入β2刺激薬、貼付型β2刺激薬
  • 抗炎症作用:吸入ステロイド薬

COPDには気管支を拡げる作用として抗コリン薬が最も効果を示すと考えられています。しかし、気管支喘息同様に風邪などの軽い感染症をきっかけに急激に発作が悪化することもあり、適宜ステロイド薬による抗炎症作用を用いることもあります。

ワクチン:インフルエンザ、肺炎球菌ワクチン、新型コロナワクチン

COPDでは呼吸器感染症が重症化しやすく、かつCOPDを悪化させる原因となることから、ワクチン接種による感染予防が重要です。代表的なワクチンにインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンがあります。特にインフルエンザワクチンはCOPDの急性増悪を減少させ、死亡率も約50%減らすと報告されています。またインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用することによって、インフルエンザワクチン単独の場合に比べCOPDの急性増悪が減少することも報告されています。すべてのCOPD患者様とその家族、介助者の方に接種をおすすめします。

ワクチン接種へ

呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーションとは、呼吸機能の回復・維持を目的に運動療法、セルフマネジメント教育、栄養療法、心理社会的サポート、導入前後・維持期の定期的な評価です。特に運動能力の向上、生活の質(QOL; Quality of life)の改善については、薬物療法にも勝るとされています。呼吸リハビリテーションを薬物療法や酸素療法に加えることで、それぞれの単独の治療よりも大きな効果が得られます。

在宅酸素療法

肺機能が重度に低下すると、普通の呼吸では十分に酸素を取り込めなくなり、呼吸不全という症状に陥ります。家庭で持続的に酸素を吸入する在宅酸素療法を行うことで、患者のQOLと生存率を高めることができます。薬物治療を継続しても1ヵ月以上にわたり低酸素血症が持続している人が在宅酸素療法の適応となります。在宅酸素療法の導入にあたっては、酸素流量の確認、酸素装置の安全な使用方法、災害および救急時の対応、福祉制度の利用および医療費などについて説明や指導を行います。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まる病気です。自分でその症状に気づくことは難しく、正しく診断・治療されずに見過ごされていることが多い病気です。寝ている間の無呼吸は、日中活動時の判断力・集中力・作業効率の低下を招き、仕事や運転に悪影響を及ぼします。以下の症状に心当たりがあれば、一度検査を受けてみましょう。

  • きちんと寝ているのに日中にひどい眠気を感じる
  • 家族に大きないびきを指摘される。
  • 家族に寝ている時の呼吸が止まっていることを指摘される。
  • 早朝に頭痛が多い。
  • 肥満があり、高血圧の薬を飲んでも血圧がなかなか下がらない。

睡眠時無呼吸症候群では、血液中の酸素濃度の低下や日々の不眠により多くの生活習慣病の合併症を引き起こすことが明らかになってきています。特に高血圧や心不全といった循環器疾患においてこの病気と関連性は高いことが知られています。これらの合併症を予防するためにも睡眠時無呼吸症候群の適切な診断と継続的な治療が重要です。

睡眠時無呼吸症候群の検査

睡眠中の呼吸状態について簡単に判定できる検査キットがあります。ご自宅で指先センサーと呼吸センサーをつけて血液中の酸素と呼吸の検査を行います。まず自宅で2~3日間寝ている前に装着いただき、後日機械に記録された情報を解析することで診断します。基準を満たせば保険診療でCPAP療法などの治療が受けられます。

睡眠時無呼吸症候群の治療

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)とは、専用の装置からマスクとホースを介して持続的に空気を送り込み睡眠中の無呼吸を防ぐ方法です。この治療を適切に行うことで無呼吸は減少し、日中の眠気や起床時の辛さは改善し、血圧や心臓にもより良い効果が期待できます。一方でマスクが合わず寝づらくて治療が継続出来ないという方もおられます。自分にフィットするマスクを選択することが重要です。

その他の治療

就寝中のマウスピース装着、扁桃腺やアデノイド切除などの外科手術