2型糖尿病と肥満症薬GLP-1/GIP【費用や期間・リバウンドは?】
今回のブログでは、2型糖尿病や肥満症の治療に使われる「GLP-1/GIP」についてさらに詳細にご紹介します。
この薬がどのように体重や血糖値を改善するのか、保険適応や費用、実際の当院での治療成績についてもお話しします。
前編の記事では、GLP-1/GIP製剤の仕組みや効果、副作用までを徹底解説していますので、まだお読みになってない方は下記の記事もあわせてお読みください。
GLP-1/GIP治療薬とは?

GLP-1/GIP治療薬は、糖尿病や肥満症の治療に用いられる注射薬で、以下のような効果があります。
- 血糖値を下げる
・血糖値を適切な範囲にコントロールすることで、糖尿病の合併症リスクを軽減します。 - 体重を減らす
・食欲抑制や満腹感の持続を促し、体脂肪を効率的に減少させます。
これらの薬には「リベルサス」「オゼンピック」「マンジャロ」などがあり、特に「マンジャロ」は注目されています。また、肥満症の治療薬として「ウゴービ」も新しく加わりました。
GLP-1受容体作動薬とGIP受容体作動薬の2つの効果を併せ持つマンジャロは、これまでの治療薬よりも高い減量効果が期待できるため、糖尿病治療の新たな選択肢として注目されています。
費用や保険適応のルール
保険診療でかかる費用の仕組み
医療費は「保険点数」という基準に基づいて計算されます。患者さんが負担する金額は、保険点数に自分の負担割合(1割~3割)を掛け算したものです。
たとえば、保険点数が1,000点の診療を受けた場合、
- 負担割合が1割なら:1,000円
- 負担割合が2割なら:2,000円
- 負担割合が3割なら:3,000円
という計算になります。この仕組みにより、患者さんは比較的低い負担額で医療サービスを受けることが可能です。
保険診療と自費診療の違い
保険診療と自費診療には明確な違いがあります。
保険診療 | 自費診療 |
---|---|
医師の診察が必須 | 医師の診察が原則必要 |
適応症が必要 | 適応症が不要 |
処方箋の発行が必須 | 処方箋が不要 |
費用がどの病院でも一緒 ※保険点数×自身の負担割合 |
病院間で異なる(地域や需給など) |
費用の具体例
糖尿病の患者さんが保険診療で治療を受けた場合、たとえば以下のような費用が発生します。
- メトホルミン(飲み薬)とオゼンピック(注射薬)を使用
- 自己負担割合3割の場合、月8,000–8,500円前後
自費治療の場合はこれより高額になるため、保険診療が適用されるかどうかは大きなポイントです。また、薬の費用だけでなく、診察料や検査費用も含めて計算する必要があります。
糖尿病ではない患者に対する処方の問題
一部の患者さんが「糖尿病ではないが痩せたい」と言って、ダイエット目的で「マンジャロ」などの処方を求めてこられるケースがあります。しかし、糖尿病ではない患者に2型糖尿病の診断をつけて薬を処方するのは医療法違反です。
そのような行為は、医療機関の指定取り消しなどの厳しい罰則があるため、適切な診療が求められます。また、糖尿病の診断が保険適用において必要であり、以下の基準を満たすことが求められます。
- 空腹時血糖値:126mg/dL以上
- 食後血糖値:200mg/dL以上
- HbA1c:6.5%以上
これらの基準を満たさない場合は、保険診療で薬を処方することはできません。
ウゴービの治療ハードル
ウゴービとは?
ウゴービは、肥満症に対する治療薬として日本で初めて承認されたGLP-1受容体作動薬です。この薬は、糖尿病患者でなくても使用できるという特徴がありますが、その使用には厳しい基準と規制が設けられています。
ウゴービの投与基準
ウゴービを使用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- BMIが27以上で、肥満に関連する健康リスクを2つ以上持つ患者
・例:高血圧、脂質異常症、糖尿病など - またはBMIが35以上の患者
・これに該当する患者は、特に重度の肥満症と見なされます。
さらに、これらの基準を満たした上で、十分な食事療法や運動療法を行っても効果が得られない場合に限り、治療の選択肢として検討されます。
治療を行う医療機関の条件
ウゴービの治療を提供するには、医療機関も一定の基準を満たす必要があります。
- 常勤の管理栄養士が在籍していること
- ウゴービに関する十分な知識を持つ医師がいること
特に、令和6年4月時点では、大学病院や基幹病院、一部の専門病院に限定されているため、一般的なクリニックでは対応が難しい状況です。
開始前に必要な準備
ウゴービを始めるには、患者さん自身が事前に約半年間の食事療法や運動療法を行い、その効果を確認する必要があります。この期間は、適切な治療計画を立てるための重要なステップとされています。
また、治療を受けるためには、医師による詳しい診断と説明が行われ、患者さんの理解と同意を得る必要があります。
患者さんへのアドバイス
ウゴービによる治療は、効果が期待できる反面、治療を開始するまでのプロセスが複雑です。また、治療を成功させるためには、食事療法や運動療法を継続的に行うことが不可欠です。
適切な医療機関での診察を受け、医師や管理栄養士の指導のもとで治療を進めることで、安全かつ効果的な減量が期待できます。
当院での治療成績
患者さんのデータ
当院では、2023年4月から2024年3月までに76名の患者さんが「マンジャロ」を使用しました。
- 平均年齢:43歳
- HbA1c(血糖値の指標):7.4%
- 平均体重:82.1kg
- BMI:30.5
- 高血圧などの合併症を持つ患者さん:86%
体重と血糖値の変化
治療を開始した患者さんの体重変化率を見ると、
- 1年で平均10%の体重減少
- 1年後のHbA1c:7.4⇒5.8%

過去に他のGLP-1治療薬を使用した患者さんよりも、初めて使用した患者さんの方が体重減少が大きい傾向が見られました。特に、初めてGLP-1を使用する患者さんでは、体重が順調に減り続ける傾向があります。
継続率と副作用
- 治療を継続している患者さん:64名(84%)
- 副作用で中止:2名
- 通院中断:6名
- 目標達成により中止:4名
副作用の例としては、吐き気や胃の不快感が挙げられますが、これらは多くの場合、数週間で軽減する傾向があります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 糖尿病ではない人がGLP-1を使用してもいいの?
糖尿病の発症や進行の予防という点ではポジティブな影響が予想されます。また糖尿病ではない方に使うことで副作用が増えるといった報告もありません。実際に、海外では数年前から糖尿病ではない患者に使用が開始されており、国内でもウゴービだけではなく他のGLP-1/GIP製剤についても肥満症に対する適応拡大の動きがあります。ただしこの薬の特性を十分に理解している医療機関にて、効果や副作用の両面をみながら安全に使用できているかを丁寧に確認する必要があるでしょう。
Q2. 治療はどれくらい続ければいい?
適切な治療期間は明確ではありませんが、治療を中止するとリバウンドする可能性があります。ウゴービの研究データによれば、20週間治療続けた患者が中断した場合に、その後体重が緩やかにリバウンドしてたという結果があります。(JAMA April 13, 2021 Volume 325, Number 14)
ただし、治療中に習慣化した食事や運動を続けることで、リバウンドを防ぐことが期待できます。当院でも注射をやめてからも食事習慣や運動の継続により体重を維持されている方が多数おられます。注射を行っている期間も薬だけではなく、正しい食事習慣や運動習慣を身に着けていくことが重要です。
まとめ
- GLP-1/GIP治療薬を保険診療で受けるには、医師による適応症の診断が必要。
- 減量効果は、治験データよりも高そう。食事療法、運動療法の継続的な支援が必要。
- 肥満症に対する保険治療「ウゴービ」は治療を受けるためのハードルが高い(令和6年4月時点)。
- 薬の中止後も減量効果を維持させるためには、食事療法や運動療法の継続が最も重要。
この記事が、治療を検討している方々の参考になれば幸いです。