インフルエンザウィルスの流行について
尼崎市立花駅前の「にしな内科」で糖尿病内科や甲状腺疾患を担当している院長の仁科です。
毎年この時期にニュースなどで「インフルエンザが流行のピークを迎えています」といった話題をよく耳にしますね。インフルエンザウィルス感染症は発熱や全身のだるさ、関節痛など、つらい症状を起こすだけでなく、ときに肺炎や脳症などの重い合併症を引き起こすこともある病気です。
特に小さなお子さん、ご高齢の方、基礎疾患(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)をお持ちの方にとっては、ただの「季節の風邪」では済まない場合もあります。
この記事では、「インフルエンザウィルスの流行」について、
- 感染経路
- 受診の目安
- 予防策
- 治療(抗ウィルス薬)
の順に、できるだけ分かりやすく整理してお伝えします。
ご自身やご家族を守るための参考になれば幸いです。

インフルエンザの感染経路について
インフルエンザは、インフルエンザウィルスというウィルスが「飛沫感染」と「接触感染」によって広がる病気です。
① 飛沫感染
咳やくしゃみ、会話の際に、口や鼻から細かいしぶき(飛沫)が飛び散ります。この中にインフルエンザウィルスが含まれており、
- 1〜2メートル以内の距離で
- 直接、相手の口や鼻から体内に入ることで感染します。電車やバス、学校、職場など、人が密集し換気が悪い環境では、飛沫感染が起こりやすくなります。
② 接触感染
感染した人が、咳やくしゃみを手で押さえたあと、その手でドアノブや手すり、机などを触ると、その表面にウィルスが付きます。その場所を別の人が触り、さらに自分の目・鼻・口を触ってしまうことで、粘膜からウィルスが体内に入るのが「接触感染」です。特に子どもは、顔を触る回数が多く、また学校や園では多くの人と同じ物を触る機会があるため、感染しやすい環境になりがちです。
③ 潜伏期間と感染力
インフルエンザの潜伏期間は、一般的に「1〜3日」とされています。症状が出る少し前から、発症後数日間は特にウィルス量が多く、周りの人にうつしやすいタイミングです。
「まだ軽い風邪かな?」と思っている段階でも、すでに周囲へ広げてしまう可能性があるため、流行期にはいつも以上に咳エチケットやマスク着用が大切になります。
受診の目安
インフルエンザ流行期には、「どのタイミングで受診すべきか」「様子を見てもよいのか」迷われる方も多いと思います。目安の一例を挙げます。
① 受診を検討してほしい症状
- 急な高熱(38℃以上)
- 全身の強いだるさ、関節痛、筋肉痛
- 寒気が強く、悪寒を伴う
- 頭痛、食欲低下 など
特に、流行シーズン中に「急に高熱が出た場合」は、インフルエンザの可能性が高くなります。早期に受診いただくことで、抗ウィルス薬が有効に使える場合があります(通常、発症から48時間以内の開始が望ましいとされています)。
但し、感染者でも発熱後12時間以内の抗原検査では結果が陰性(いわゆる擬陰性)となってしまうことがあるため検査結果の判定には注意が必要です。
② 必ず受診すべき方(重症化リスクが高い方)
以下の方は、症状が比較的軽くても受診を強くおすすめします。
- 65歳以上の高齢者
- 心臓病、肺の病気(COPD・喘息など)、腎臓病、糖尿病などの基礎疾患がある方
- 妊婦さん
- 免疫力が低下している方(ステロイドや免疫抑制剤の使用中など)
- 小さなお子さん(特に乳幼児)
上記のような場合、重症化リスクが高く治療を受けても合併症や後遺症になる可能性もあります。そのため後述する抗インフルエンザ薬の恩恵が大きいとも言えます。ですので、流行期にはできるだけかからないように注意し、もし感染が疑わしい症状を認めた場合にはできるだけ早期に受診しましょう。
③ 救急受診を考えるべき危険なサイン
次のような症状がある場合は、ためらわずに早めの救急受診を検討してください。
- 呼吸が苦しそう、息が速い
- 顔色が悪い(青白い、唇が紫色っぽいなど)
- 水分がとれない、尿が極端に少ない
- 意識がもうろうとしている、応答がおかしい
- けいれんを起こした
- 胸の痛みや強い息切れ
顔色が悪い、呼吸が切迫しているような場合には肺炎など重症化している可能性があります。重症化したインフルエンザ感染症では点滴での抗インフルエンザ薬が有効です。基本的には診療所を経由して病院受診で良いでしょう。しかし、明らかに意識や呼吸がおかしい場合には救急車での病院受診も考慮しましょう。
日々の生活の中で実施すべき予防策
インフルエンザを「完全に」防ぐことは難しいですが、ワクチン接種や生活の中で行ういくつかの注意点を守れば発症や重症化のリスクを減らすことはできます。代表的な予防策を紹介します。
① ワクチン接種
インフルエンザワクチンは、「感染そのものを100%防ぐワクチン」ではありませんが、
- 発症する可能性を下げる
- 感染しても、重症化を防ぐ
流行シーズン前(例年、秋〜初冬)に接種しておくことが重要です。高齢者や基礎疾患のある方、小児などは、特に接種が推奨されます。
② マスク着用・咳エチケット
- 流行時期の人混み(通勤電車、イベント会場など)ではマスクの着用が有効です。
- 咳やくしゃみが出るときは、マスクを着ける、あるいはティッシュや腕の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を守りましょう。
③ 手洗い・アルコール消毒
接触感染を防ぐために、
- 帰宅時
- トイレの後
- 食事の前
などに、石けんと流水でこまめに手洗いをしましょう。アルコール手指消毒も併用すると、より効果的です。
④ 室内環境の整備(換気・保湿)
- 定期的な換気で、室内のウィルス濃度を下げることができます。
- 冬場は空気が乾燥しがちですが、湿度40〜60%程度を保つことで、ウィルスの生存時間が短くなるとされ、喉や鼻の粘膜の防御機能も保ちやすくなります。
- 十分な休養とバランスのよい食事
免疫力を落とさないことも大切です。睡眠不足や過労、偏った食生活は、感染症にかかりやすくなる原因になります。日頃から、適度な運動と規則正しい生活を心がけましょう。
治療について(抗ウィルス薬の種類など)
インフルエンザと診断された場合、症状や年齢、基礎疾患の有無などに応じて、抗ウィルス薬が検討されます。抗ウィルス薬は、インフルエンザウィルスが体内で増えるのを抑える薬で、「発症からできるだけ早く」使い始めることが大切とされています。
言い換えれば、ウィルスの増殖が止まってから使用してもほとんど効果がなく、その目安の時期が発熱後48時間(あくまで多くの患者さんを統計的にデータをとった平均的な時間であり、48時間を超えてから投与しないわけではありません)程度とされています。
ここでは、代表的な薬を簡単にご紹介します(実際の選択は、医師が全身状態やリスク、流行状況を考慮して決めます)。
① 内服薬(飲み薬)
- オセルタミビル(タミフル®)
最もよく使われる薬の一つで、1日2回、5日間内服します。成人から小児まで幅広く使われます。
- バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)
体重に応じた量を基本的に「1回飲むだけ」で治療が完了する内服薬です。飲み忘れの心配が少ないのが特徴です。
② 吸入薬
- ザナミビル(リレンザ®)
1日2回、5日間、専用の吸入器を使って薬を吸い込みます。
- ラニナミビル(イナビル®)
通常は1回だけ吸入して治療が完了します。小児にもよく用いられますが、吸入操作がしっかりできることが必要です。
③ 点滴薬
- ペラミビル(ラピアクタ®)
吐き気や意識障害などで内服や吸入が難しい場合や、重症例で用いられることが多い薬です。医療機関で点滴投与を行います。
④ 抗ウィルス薬の共通したポイント
- どの薬も「発症から概ね48時間以内」に開始することで、発熱期間を短くし、症状を軽減する効果が期待できます。
- ただし、「薬を飲めばすぐに元気になる」というわけではなく、休養・水分補給・解熱鎮痛薬などの対症療法も併せて行うことが一般的です。
- 抗生物質(抗菌薬)は「細菌」に効く薬であり、インフルエンザウィルスそのものには効果がありません。二次感染(細菌による肺炎など)が疑われる場合を除き、むやみに使用しないことが原則です。
⑤ 自宅での過ごし方
- 高熱のときは無理をせず、しっかり休養を取りましょう。
- スポーツドリンクや経口補水液などでこまめに水分を補給し、脱水を防ぎます。
- 食欲がないときは、消化の良いものを少しずつ。
- 家族の中で感染を広げないために、マスク着用・手洗い・こまめな換気も心がけましょう。
さいごに
インフルエンザは、毎年のように流行する身近な感染症ですが、ときに重い合併症を引き起こすこともあり、「ただの風邪」と油断できない病気です。
- 流行期には、ワクチン接種や日頃の手洗い・マスク・換気などの基本的な対策を続けること
- 「急な高熱」「強い倦怠感」「呼吸が苦しい」「いつもと様子が違う」といったサインがあれば、早めに医療機関を受診すること
- 診断後は、医師と相談しながら抗ウィルス薬による治療や他人への感染リスクがきちんと低下する時期まで自宅での養生をしっかり行うことが重要です。
ご自身やご家族の体調で気になることがあれば一度ご相談ください。当院でも、発熱外来やインフルエンザ検査、治療、予防接種のご相談を随時受け付けております。地域の皆さまが安心して冬を乗り切れるよう、お手伝いできればと思います。
ご自愛ください。
